B:覆い隠すもの サーティーンス・チャイルド
イェスタランドをふよふよ漂っている、シーツのお化けみたいな魔物を見たことがあるかしら。その中でも、ひときわ注意が必要な個体がいるわ。ほかの個体と異なってイェスタランドの外にも現れて、動植物に覆いかぶさり……跡形もなく消し去っちゃうのよ。目的が何なのか、さっぱりだけどね。
ちなみに「サーティーンス・チャイルド」って名前は、アレクサンドリアに伝わるお化けの逸話にちなんだものよ。その内容は……きっと怖くなるから、言わないでおいてあげる。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
アレクサンドリアの古い民話に「サーティーンス・チャイルド」というお化けの話がある。
内容は、まぁ、子供を怖がらせていう事を聞かせようとする親のエゴが詰まったどこにでもある他愛のない話だ。民話のサーティーンズ・チャイルドはターブルクロスのお化けで、夜になるとフワフワと外に飛び出し、夜更かしや夜独り歩きしている人にふわっと覆いかぶさり包み込んでしまう。
そのクロスの裏面には大きな口があるとも、魔物の世界や魔法で造りだした異世界へ繋がっていてそこに連れて行かれるのだとかと地方地方で言い伝えに若干の差異はあるようだが、そもそも、何故カーテンやクッションカバーなどではなくテーブルクロスなのだろうか?包み込むという作り話に信憑性を持たせるためには大きめの方がいいとでもおもったのかもしれない。
いずれにしてもカーテンやソファのカバーではなくテーブルクロスのお化けであるという事と包まれると連れ去られてしまうという行はどこの地方の話しでも共通しているのだという。
この民話はアレクサンドリアでは知らない人がいないくらい良く知られた民話だし、子供ならともかく大人はそんなお化けの話など信じている者はいない。…はずだったのだが、実はイェスタランドにこのお化けのモデルになったのかというくらい似た魔物が存在している。いや、正確には昔からいたのだが、その魔物の中に他の個体より行動範囲が広く、強い特異体が発生しそいつがイェスタランドの外にまで現れるようになり、改めて認知されたと言った方が正確なのかもしれない。
とにかく大人から子供までサーティーンス・チャイルドは実在したんだと大騒ぎになっているのだという。この騒ぎに困った人たちがギルドシップに討伐を訴え、あたし達にお鉢が回ってきたという訳だ。
「ちょっといい?」
サーティーンス・チャイルドの討伐に向け、魔物の説明や報酬の額や受け渡しについての取り決めを説明していた担当職員の目を見て言った。
「あたし、その妖怪知ってるわ。極東の島国の南方地域にね、一反木綿って言う、、」
「一反木綿は反物。テーブルクロスじゃないやん」
相方があたしの言葉に被せ気味に言った。段々ついてくるようになったな、とあたしは上から目線で思った。
「でもさ、空を飛ぶ妖怪っていったらやっぱり一反、、、」
「テーブルクロスちゃうよ。しかも妖怪って言ってないし。」
再び被せ気味に発言をキャンセルされあたしはちょっと落ち込んだ。相方は担当職員の方に顔を向け、「ほんとしょうがない子なんです」とでもいうように笑顔を浮かべ話の先を促した。担当職員も「いえいえ、ご苦労が絶えませんね」というような笑顔で頷き話を進めた。
「この魔物は民話と同様に獲物を包み込んで忽然と消し去ってしまうんです。今の所、主に小動物や小型の魔物が餌食になっているんだけど、人が襲われそうになった事例もあってちょっと放置はできない状態なんですよ」
「それはちょっと看過できないね。分かった、引き受ける。いいよね?」
相方はちょっとしょげているあたしの方を見て同意を求めた。あたしはこくんと頷く。
「ありがとうございます。くれぐれも包み込まれないように気を付けてくださいね。それと…」
担当職員は椅子に座ったままカウンターの下に置いてある箱の中をゴソゴソ漁って、何かを取り出した。
担当職員の手にあるのはオカリナだった。
「指定地点をお伝えしますのでこの笛を…。」
「おい、やっぱり一反木綿やろ?」
相方が凄んだ低い声で言った。
「えっ、一反木綿は反物ですよね。この魔物はテーブルク…」
「オカリナで呼ぶって言ったら一反木綿じゃん。ゲゲゲはどこに隠れてる?」
あたしはキラキラした目で立ち上がってカウンターに両手を突く相方を見上げた。
「そうよね?やっぱり一反木綿よね!きっと倒したらマウントになってくれて、方言で喋るわよね!」
やっぱりあたしの相方である。あたしは便乗して言うと立ち上がり、相方とハイタッチした。
無事に仕事は受注できたが、あたし達はその後3分でギルドシップを追い出された。
リビング・メモリー